加賀象嵌の純金菊文様が施された黒鉄地のコンパクト

箱を開けた瞬間、

黒の奥から金が立ち上がるように見えました。

加賀象嵌。

鉄地に細く溝を刻み、

そこへ純金を打ち込んでいく技法です。

派手ではありません。

けれど、近づくほどに

一本一本の線の緊張が見えてきます。

今回の意匠は菊。

花弁は柔らかく見えますが、

実際は彫りと打ち込みの連続で

生まれた硬質な仕事です。

黒は塗りではなく、

鉄を焼き、仕上げて生まれる深い色。

金が浮いて見えるのは、

その下にある鉄の密度が

しっかりと受け止めているからだと思います。

内側には「OODA」の刻印。

当時のブランド展開の中で

工芸技法を日用品へと落とし込んだ時代の空気も感じられます。

象嵌のコンパクトは

菊だけでなく、梅、桜、草花、抽象文様など

多様に展開されています。

技法を見るのか、

意匠を見るのか。

同じ象嵌でも、

一つずつ表情が違うのが面白いところです。

これは、その入口の一つ。

金が、黒に沈まず、

静かに立ち上がっている個体です。