
子どもの頃の私は、日本の工芸にはまだ気づいていませんでした。
心を惹かれていたのは、遠い国の童話や絵本の世界。
彩られた挿絵や物語に夢を重ねていたのです。
大人になり、母の遺したタンスを整理していたとき、ひとつの小箱が目に留まりました。
桐の箱に仕舞われていたのは、オレンジ色の花が描かれたナコンの七宝コンパクト。
おそらく結婚式か何かのお祝い返しだったのでしょう。
母は一度も使うことなく、大切にしまい込んでいたのだと思います。
蓋を開けた瞬間、手のひらほどの小さな世界に、オレンジの花のきらめきと工芸の精緻さが広がりました。
あの出会いを機に、私は昭和の工芸コンパクトを集め始めたのです。
美術品商としての日々の傍らで、こつこつと集め続けてきた工芸コンパクト。
気がつけば、その数は100を超えていました。
ひとつひとつの中に、昭和の女性たちの夢や憧れ、そして日本の美意識が息づいています。
このサイトでは、そんな小さな工芸の魅力を、これからも丁寧にお届けしていきます。
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